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スクブルチャン・ゴチャック ~16日間の五体投地~

2012.03.21

チベット暦のお正月前後に、ラダックではゴチャックという行事が行われます。
人々は五体投地(両肘・両膝・額を地面に投げ伏す礼拝方法)で何日もかけて自分たちの属するゴンパ(お寺)に向かいます。



私の調べでは、ゴチャックが行われるのはラダックで4箇所。



①スクルブチャン→ラマユル・ゴンパ(50km)/16日間 ●チベット暦12月30日スタート
②カルシ→ティンモスガン・ゴンパ(18km)/7-8日間  ●チベット暦12月30日スタート
③サスポル・アルチ/3日間 ●チベット暦1月7日スタート
④レー(ツェモ・ゴンパ、旧王宮、シャンティ・ストゥーパなど)/3日間 ●チベット暦1月14日スタート


チベット暦でひと月は30日までしかありません。つまり12月30日は年末。
その日から1ヶ月間はラダックではお祈り月間に当たり、ゴチャックではなくても早朝お寺に通ったりします。
そしてこの期間人々はお肉、魚、ガーリックを食べません。もちろん禁煙、禁酒です。

なぜこの期間なのか?と聞くと、2,500年前の新年から15日間、インドで第一の仏陀であるシャキャムニによって教えがあったからなのだそうです。



どうしてもゴチャックが見たい。
ラダックに出発する当初はほんの少しの情報しか持っていませんでした。後は現地で情報収集をすればいいかと。
しかし、ラダックの中心地であるレーで人に聞いたところで、彼らはレーのゴチャックの事しか把握していません。
たった1時間離れた町のことですら地元の人じゃないと分からない現状です。
私のゴチャック情報をラダックの人たちに話すと、「どこでそれを知ったの?」とびっくりするほどです。

運に任せるしかない。
チベット暦の年末に当たる西暦2012年2月21日に合わせてスクルブチャンに向かいました。


スクルブチャンまではレーから車で4時間程度。
村が見えてきてもゴチャックをする人たちは見えてきません。
もしかして日にちが違うのか?と不安になりました。
とうとう村に到着。
村人に聞くとある場所へ案内してくれました。
いたっ!!!



狭い家々の間を村人に見守られながら進んでいました。

この時点で正午を回っていましたが、まさかまだ村に居るとは。
どうやらゴチャック1日目の午前は、村のゴンパで僧侶たちによるお話し(ゴチャックなどについて)があり、それが終わって出発するようです。



スクルブチャンのゴチャックは参加人数がそこまで多くありません。
スタート時で16人。
レーのゴチャックは1,000人以上の規模と言いますからこじんまりです。
また、歴史のあるレーのものとは違い、スクルブチャンのゴチャックは80年ほどの歴史のようです。
それでもこのローカルさが私には魅力的でした。



しばらく見ていると村を出た辺りで休憩に入りました。
ぶっ続けではないのです。
一行は一度村に戻り(まだ近い距離なので)昼食。
それが済むとさっきの位置まで戻りゴチャックを再開します。

村人たちはまるで遠足のようにポットや鍋を広げ、ゴチャックメンバーを厚くもてなしていました。
お茶を何杯も飲ませ、テントゥク(チベット風だんご汁)をふるまい。
ゴチャックは村の一大行事なのでしょう。


人々にとってゴチャックはとても良い行いで、それを実行出来るわずかな人たちを皆で支援しています。
じゃあ何故自分たちはゴチャックをしないのかという疑問が湧いてきますが、彼らにだって仕事はあります。
スクルブチャンの場合はそれを16日間も休まないといけない。
その休みを取れる境遇の人、ゴチャックに参加出来る人たちは幸運の人なのだそうです。
人々はチャンスさえあればゴチャックをしたい!と思っているようです。

メンバーが村を後にする時、村人が彼らに手を合わす姿を見ました。
ゴチャックがいかに尊いものなのかが分かります。



村人も、私のドライバーも、私も、皆が彼らにドネーション(寄付)をしました。
額は決まっていません。いくらでも。
これはゴチャックの道中で宿費(ホールのような大きな宿泊所)や食費、輸送トラックなどの運送費に使われます。
メンバーのリーダーがドネーションをした一人一人の名前を書き止め、ゴンパまで持って行くそうです。



リーダーによってお祈りが捧げられた後、ゴチャックが再開。
真言を含む歌を皆で声をそろえて大声で歌いながら進みます。
五体投地ですら延々その動作を繰り返すのは大変な行いなのに、ここまで大声を出し続けていたら喉もつぶれそうです。



メンバーはスクルブチャン周辺の村から集まり編成されていました。
皆目的地であるラマユル・ゴンパに属しています。
最初16人だったメンバーも数時間後には19人になっていました。
いくつもの村を通り過ぎる度に参加者が増え、ラマユル・ゴンパに付く頃には40~50人になっているそうです。



スクルブチャンの場合、基本的に朝6時から夜7時半までゴチャックを続けるとか。
しかし、さっき書いたように休憩は取ります。
どのタイミングで休憩を取るのか。
これが驚きでした。

五体投地を108回繰り返すと一区切りなのだそうです。108、煩悩の数。
それが終わると短いお茶休憩に入ります。
村人はそれにどれくらいの時間を費やすか把握していて、108回が終わる頃に合わせて運送用の車でやってきて、メンバーにお茶を振舞います。
そしてこの数はサブリーダーが数えていました。



108回とはいえ、一回一回に時間がかかるのでそうそう休憩はやって来ません。
体中埃まみれになりながら、ひたすら五体投地を続け、わずかに距離を進めていいきます。



そんな真剣な彼らをよそに、村の子供たちは大はしゃぎ。
2列になった一行の間をタイヤを転がしながら走り抜けていきます。
何度も何度も、行ったり来たり。
時には五体投地で地面に伏せている人の上にタイヤが転がったり。
子供、自由過ぎます・・・
大笑いしている子供にメンバーは怒ったりしません。というか、怒れません。
ずっと大声で歌いながら五体投地をしているのですから。
怒る雰囲気もないようです。
真剣だけど優しい空気でした。



スクルブチャン周辺の谷は標高も3,000mをきり暖かいです。
リーダーが「今年は雪がないから楽だ」と言っていました。
先回りで目的地のラマユル・ゴンパに行って来ましたが、辺りは雪景色で極寒でした。



途中の道は決して楽なものではありません。この目で見たから確かです。
それでも彼らは、道が石でごつごつしていようと、凍結していようと、雪で埋もれそうになっても、一歩一歩進んで行くのでしょう。

全ては来世のために。